Memories of Hakuchi
updated on 03/24/2009
新潟の市民映画館シネ・ウインドが発行している月刊「ウインド」の
第169号(1999年11月号)の映画「白痴」特集へ寄稿した一文です.
「白痴」 この映画は私にとって特別な映画なのだ.
何故特別かと言うと,
私が映像の「送り手」になった初めての映画だからだ.
撮影現場での私の働きなんて製作全体の何億分の一ほどのモノなのだから,
「送り手」なんて言うのはおこがましいのだが,
今まで私が出会った何百本という映画では,
私は完全に「受け手」だったのだから,
「白痴」は明かにそれらとは違うのだ.
初めての撮影現場は,初めての外国旅行の様に,
見るもの全てが新鮮で楽しいことの連続!
という様な甘い世界の筈はなく,苦労の連続だった.
ベテランのスタッフ達がテキパキと働く中,
自分が何をしていいか分からず立ち尽くしていて叱られたり,
撮影の直前に大事なアジサイの枝を折ってしまって
花より自分が青くなったり,
未明に撮影から帰ってあまりの眠さに風呂に入る気力もなく,
泥だらけの身体のまま死体の様に眠ったり,
ジリジリ焼き付ける太陽の下で鉛のように重い機材を
「ベン・ハー」の奴隷のように汗だくになって運んだり,
連日の泥作業で洗濯・乾燥が間に合わず,
濡れたままの冷たいジーンズを履いて作業したり...
まぁこの程度のことは映画界ではきっと当たり前のことなのだろうが,
今までデスクワークしかしてこなかった私にとっては
ちょっとしたカルチャーショックなのだ.
「白痴」を観てくれるお客さんはそんな苦労を想像すらしないで
空調の効いた劇場でポップコーンなんかをポリポリ頬張りながら
楽しんでご覧になるのだろうが,
私は完成した映像を観ているとそれぞれのシーン撮影での
ほろ苦い思い出に浸ってしまって,
映像の流れに追いつけなかったりする.
「白痴」のこのフィルムは,まるで私のあの夏の思い出も
一緒に焼き付けてしまったみたいだ.
一年以上経った今,撮影の行われた美咲町のオープンセットも
雑草だけになってしまったが,新潟滞在中何度も見た
日本海上空に広がる夕焼のオレンジ色,
信濃川の川面に浮かぶ万代シティの夜景の煌き,
自転車をこぎながら見上げた夜明けの空の紺色を
私は今でも忘れることができない.
written by Katsumi Nakane
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中根 克